気がつけば結婚して20年。
子育てもひと段落し、ようやく少し自分の時間が持てるようになったこのタイミングで、思いもよらない話が持ち上がりました。
「実家の敷地に家を建てないか」という提案。
旦那さんの実家の土地は義母さんの名義で、そこにはお姉さん親子も一緒に暮らしています。
正直なところ、これまで私は“マイホーム”に強い憧れを抱いたことがありませんでした。
今の賃貸暮らしが気楽で、身軽な方が性に合っていると思っていたのです。
それでも、義母さんの口から「そろそろ家を建てたらどう?」と言われた瞬間、少し空気が変わりました。
どこまで本気なのか分からないし、年に数回しか会わない関係。
どう進めていいかも分からず、心の中はぐるぐる…。
しかも、50代でローンを組む現実的な不安も大きく、頭の中では「今さら家なんて」と、ため息がこぼれそうでした。
そんな中、まずは義母さんと顔合わせを兼ねて、実家の敷地と建物の下見をすることに。
工務店さんと一緒に伺う日、私の父のかつてのアシスタントさんも同行してくれることになりました。
父が生前お世話になっていた方で、私も昔、父の仕事を手伝っていたことがあるため、顔なじみの安心感がありました。
現地に到着すると、懐かしい話に花が咲き、思わず笑顔に。
父の仕事中の裏話や私の知らなかった一面を聞くうちに、胸の奥にあたたかいものがこみ上げてきました。緊張していた心が少しずつほぐれていくのが分かりました。
そして気づけば、心の中で長年しまい込んでいた思いが、一気にあふれ出していました。
「私はもともとフリーターで、自由に生きてきたタイプなんです。家に強いこだわりはないし、誰かを追い出してまで家を建てたいとは思っていません。」
思えば、これまでの人生で『家を持つこと=幸せ』という価値観にどうしても馴染めなかったのかもしれません。
今の生活も悪くないし、無理をしてまで形にこだわる必要はないと思っていたのです。
けれど、アシスタントさんも工務店さんも、そんな私の気持ちを否定せず、ただ静かに耳を傾けてくれました。「それも立派な考えですよ」と言われた瞬間、張りつめていたものがほどけたような気がしました。
不思議なことに、その時間を共有したことで、義母さんの表情も柔らかくなり、安心したような笑顔を見せてくれました。
どうやらこのお二人をすっかり気に入った様子。義母さんの中でも『家を建てたい』という気持ちが、本物になったのかもしれません。
お姉さん親子の気持ちはまだ分かりません。
家づくりは、単なる建築計画ではなく、人の気持ちが複雑に絡み合うもの。慎重に進める必要があります。それでも、止まっていた時計の針が少しずつ動き出したように感じるのです。
50代にして、ようやく自分たちの「暮らし」を見つめ直す時期が来たのかもしれません。
これまでの経験や家族との距離、そして自分の生き方すべてを含めて『どんな家に住みたいか』ではなく『どんな生き方をしたいか』を考える家づくり。
焦らず、比べず、自分たちのペースで、少しずつ形にしていけたらいいなと思っています。
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